ノトニクル

ノトがベトナムのどこかをうろつきます。

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ノバティカルクロニクル 〜 パドバケーション 序曲

      2014/09/16

昨日までの憂鬱を杞憂と呼ばずして何と呼ぶか。
ここパドバの人たちは、私がイタリア語をまともにしゃべれないことを知ると、一生懸命英語で話そうとしてくる。彼らは別に英語に慣れているわけではない、実際日本人レベル。泊まっているパドバ版志摩観光ホテルはアルベルトの親族が経営しているところなのだが、私が着くや否や、奥さんのご両親総出で挨拶にくる。何か用事あればすぐ連絡してくれと言ってくる。何も用事がないので連絡しないでいると、何か用事はないのかと連絡してくる。彼らの半分はホスピタリティーで出来ている。

アルベルトと奥さんと、パドバの中央市場にやってくる。
総菜屋さんでアルベルトが買い物をする。アルベルトの買い物ついでに店のおじさんが試食させてくれる。”こんなうまいもの食べたことないはずだ”というようなドヤ顔で、ブラータというゴルフボールくらいの大きさのモッツァレラをくれる。これはもう、はっきり、おいしい。表面はモッツァレラだが、中が完全に固まっていない。概ね固まっているが、まだクリームの部分が残っていて、生クリームを半量まで煮詰めたみたいなトローっとした濃厚さ。でも乳臭さとか油っぽさはない。しかも海水くらいの塩分濃度の塩水に浸かっているから味がついていておいしい。2日おきに南イタリアから直送されてくるそうだ。今まで食べたモッツァレラでダントツだったのは言うまでもないけれど、また食べたい食べ物20位以内にも入る。

そうこうしていたら、今度はドライトマトのオイル漬けをくれる。トマトが肉厚で甘くて濃厚だ。これだけで好き好んで食べないけれど、パスタソースに使ったらおいしいだろうなぁ。イタリア人が実際やっているかどうか知らないけれど、湯剥きしてからドライトマトにしたら、もっと口の中でとけやすくなって味わい深くなるんじゃないかなぁ。アラビアータとか、ちょっとだけクリームかフレッシュチーズとあわせたら濃厚でおいしそう。

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ところで日本で標準的に売られている野菜は、なぜあんなふうに標準化されてしまっているのだろう?最近はBioブームで小さなマルシェみたいなのが都心にも出てきたり、ネットで有機野菜販売のサービスとかもあるけれど、それでもやはり基本的に全てが清潔で、均一で、味も統一されている。輸入品に厳しい規格を設けるならまだわかるが、国産の生産物に対しても同様だ。南北に長い上に農作できる土地が少ないから、その土地その土地で採れる生産物を頻繁に交換しなきゃならないことから規格が厳しくなったのだろうか。

今日の買い物はちょっとした総菜だけだったので、買い物も早々に切り上げて広場のバールで休憩。Spritzというご当地カクテルを飲む。キリンから出ているWine Spritzerと同じようなものだと思う。パドバのそれはアペロールを入れている。病院のシロップみたいな味がする。おごってもらっておいてなんだがあんまりおいしくない。
シチリア帰りのアルベルト夫妻に、シチリアはどうだったかと聞く。基本的にそこにあるもの全てが素晴らしいのに、現地人がそれをダメにしているみたいだった、とのこと。北と南ではまったく文化が違うに留まらず、南イタリア人は北イタリア人にとってクレイジーにすら映るそうだ。彼ら曰く、北は欧州気質で南はアフリカ気質とのこと。経済破綻したくせにのうのうとしているギリシャ人をドイツ人が蔑んでいるみたいなもんだろうか。
生活スタイルだけじゃなくて、言葉も人種も違う。各地域で特有の言葉で話すそうだ。ここの人たちはナポリ人の言っていることがわからないくらい違うらしい。標準語で話す地域はどこかと聞くと、そんなところはないとのこと。そういうの困るんだよね、イタリア語勉強してる身分としては。
たしかに、この辺りの人たちは、仕事でミュンヘンに行った時に一緒に働いた人たちを彷彿とさせるほど基本的に真面目で、見た目も金髪青い目ゲルマン人で背も高い。レストランのキッチンに一人ナポリ人がいるけれど、顔つき以上に体の骨格が全然違う。ただ単純に背が低いとかじゃなくて、体を構成する各パーツの配置や大きさの比率が違う。馬とアルパカくらい違う。
どこか南イタリア人を小馬鹿にしているような雰囲気はあるものの、食材については、おいしいものはたいてい南にある、それは認めようとのことだ。プライドの高そうな彼らが言うんだから相当なもんなんだろう。気候と土壌が真似できない絶対的な違いを生み出しているんだろうか。

買い物を終え、アルベルトが働いているレストランに挨拶に行く。これから仕込みを見せてもらうところだ。この人たちも揃って苦手らしい英語で話しかけてくる。ランチをこのレストランで食べて行けと言って、シェフが私のためにフルコースを作ってくれる。
前菜は、蒸したかぼちゃと軽くソテーしてゆっくり火を入れたホタテ、ゴーダチーズのソース、ショウガの香り(スプレーで吹き付けている)。胡椒の代わりにショウガでスパイシーさと香りを添加している。ホタテはどうやって火をいれているのかよくわからないけど、表面はかりっとしていて、中は均一に火が通っている。先に蒸しているのだろうか。多分簡単な調理法なんだろうけれど、いずれにせよこういうのを安定的に作る料理人ってすごいなと思う。体で覚えているんだろうな。
副菜にロマネスコ(カリフラワーとブロッコリーのハーフ)とブラータチーズのちょっと辛いパスタ からすみ風味。おいしいものにおいしいものをかさねておいしいものを振りかけたパスタ。でもピリ辛で重くなりすぎない。ふと岩本シェフが、料理にも引き算が必要です、恋愛と同じように・・・!と言っていたのを思い出す。(詳細は本人へ)

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メインは薫製したじゃがいものポタージュ、バルサミコ風味と、薫製したタコ。
芋を薫製してからポタージュにしているっぽい。とてもおいしい。薫製したタコがメインか付け合わせかで出てきて、ポタージュに入れて食べろとのこと。薫製チップの入っている箱の上に火を入れて薫製したタコが乗っている。薫製×薫製だったけど、この場合はポタージュはそのままでいいかもしれない、そのほうがタコの薫製が引き立つんじゃないかなぁ。


デザートにティラミス。最後にかけるココアパウダーを、甘みのないココアクッキーみたいなものに変えて特徴を出している。発想がクレームブリュレみたいだ。私はビスキュイに浸すシロップは苦くてアルコールが入っているやつが好みなので、これはちょっと好みではない。
全体的にシンプルで、教科書に出てくるみたいに土台がしっかりしている。個人的に、こういう誠実な料理は好きだ。
しかしベネチアほどではないものの、塩味はやっぱりかなりしっかりしている。高血圧の人には食べさせられない。冬は寒い地域だから、塩と脂で保存する食文化に由来するんだろうか。しかし料理に油をたくさん使っているのにあまり肥満は見かけない。日本人がこんな食事してたらあっという間にメタボだなぁ。なんでだろう?もともと狩猟民族だから生まれながらに骨格大きくて基礎代謝が高いんだろうか?

さて、今回このパドバに来るにあたってこのレストランのシェフに砥石のお遣いを頼まれていた。築地で買って持って行ったものの、包丁の研ぎ方をよく知らないシェフ。こっちの人は日本人みたいに包丁を研がないらしい。任せろ、今年春先わたしは一人築地の老舗有次に乗り込んで、店のお兄さんに直談判して研ぎ方を教えてもらってきたのだ。厚かましいことこの上ないがしょうがない、背に腹は変えられないのだ。トレンチコートにスカーフ巻いて一見すると観光客のノトが店先で包丁研ぎまくっているのを道行く観光客が写真をとっていた。可哀想に、平常の光景と信じさせてしまっただろうか。
レストランの聖域であるキッチンにズカズカと乗り込み、研ぎ方のデモンストレーションをする。持っていった砥石は中砥という中間くらいの粗さの石で、研ぐ包丁は多分1年以上研いでいないステンレス。もう全然研げない。本来ならもっと粗い石から始めるレベルで刃が落ちている。ステンレスは鋼と違って固いからなかなか削れない。しかも柳刃包丁で刃が厚いからより削り落とさなければならない。中砥で20分30分ひたすら研ぎ続けるノト、Ohジャポネーゼ!充分だよ、もういいからとコーヒー飲みなさい!まだ研ぎ終わっていないので断って研ぎ続けたが、コーヒーを熱いうちに飲めというので9割くらいで渋々引き上げる。にわかにウェイターがディナーの準備をし始める。そういうことならそうと言ってくれ。イタリア人に気を使われる日本人。研いでいるときの気迫で話しかけにくかったのかもしれない。

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アルベルトに、ディナーは知り合いのワイナリーに行くが一緒に来るかと聞かれる。愚問、もちろん行く。それが食べ物と呼ばれるものなら得体の知れない生肉だって食べる覚悟で来ているのだ。ワイナリーに行かない訳がない。一旦ホテルに戻ってからディナーへ向かう。帰り道の道中、日本のシェフ友達からもらった和食食材が家にあるから、使い方を教えてくれという。もちろんOK、むしろそれを待ってた。イタリアで早急な友好関係構築のために和食を作るのは想定内。スーツケースの1/4は和食食材なのだ。

ディナー。市街地から20分くらい車を走らせて着いたのはなだらかに続く丘の斜面のこじんまりとした石造りの家。
招待してくれたパウロはこの地区で結構名のあるワイナリーのオーナーで、ワインはアメリカに輸出している。併設のテイスティングのための部屋で彼のつくったワイン、近くの農家のチーズ、ホームメイドのハム、昼に買った総菜を並べて、簡単な夕食。チーズは日本でデパ地下で買うものとあまり変わらない。地産地消タイプのチーズだから、値段は1/10とかかもしれないけれど。チーズこそ普通なものの、自家製の生ハムがすごくおいしい。豚バラ肉ロール状に巻いて、塩とスパイスで味付けして腸に詰めて(怪しい)作るんだそうだ。がっちがちに固まった豚バラハムをスライサーで薄ーくスライスすると、ラードの部分がバターのように口の中で溶ける。もともとが固いから、薄ーくスライスしても赤身部分も十分な食感が残る。スパイスがしっかり効いているから全体的に重くならない。

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そしてワイン。ワインのことは全くよくわからないけれど、少なくとも彼のワインは香りと味わいの組み合わせが意外で、その意外性を楽しめる。すごく甘い香りだと思ったら味はかなりドライだったり、スモーキーな香りなのにとても甘かったり。カラーパレットから、香りと味わいそれぞれにその日の気分で色をチョイスしました、みたいな自由な感じがある。服飾学校のオシャレな若者が、奇抜で面白い格好で目を楽しませてくれるような感じだろうか。
それほどイタリアワインは知らないけれど、イタリアワインがフランスワインほど日本でなじまないのもなんとなくわかる。土着品種が多くて個性的で、しばしば「面白い」と形容されるが、多分、「面白い、interesting」と形容されるものは、日本のような安心安全標準均一を求めるマーケットではなかなか浸透しないだろう。面白い、というのは独自性がもたらすもので、独自性というのは標準と相反するものだ。面白い、というのはビジネス的にはむしろ褒め言葉ではないかもしれない。

と、その時だ。アルベルトがパウロたちに、うちで和食パーティーをするからおいでよ!と誘っている。パウロ達大喜び。おい、ちょっとまて被害者を増やすな、いや落ち着け自分、こういうケースはだいたい10人まで膨らむのだ、わかっていたではないか。私の動揺などお構いなしに彼らのテンションはどんどん上がっていく。いい日本酒がある、生卵は食べれない、ホットプレートでパンケーキを焼いて、なんかの皮みたいなのが踊るだろう?あれは何だ?云々。(※かつおぶし)
明日は市場に食材を見に行かなければならない。ワインに垂涎している場合ではない。手巻き寿司と天ぷらの材料を探さなければならない。天ぷらなんか自分でほとんど作ったことないが確実にウケるということで、確実な任務遂行のため天ぷら粉を3袋も持ってきたのだ。20kgの荷物のうちの1kgを天ぷら粉に譲り渡したのだ、用意周到ではないか。

”Ciao、またすぐに会おう!おやすみ!”
早速明日はまた市場に行って食材を物色しなければ。期待を裏切るわけにはいかない。そして虫さされ防止スプレーとイタリア版ムヒも買わなければならない。もう英語感謝祭は終わったというのにまだ蚊が調子に乗っている。しかしこれ以上蚊の横暴を許すわけにはいかない。

つづく

おまけ
アルベルト先生の今日のイタリア語
finocchio(読み方:フィノッキオ): ういきょう、ゲイ
* finocchio di merda! このクソホモ野郎!

 - イタリア旅行記, 料理

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