ベトナムのコロナ事情
世界中でコロナが広がって、日本でも毎日何百人の感染者が出ているようだけれど、ベトナムは(私が自慢することじゃないけど)追加感染者0を1週間くらいマークしている。これはベトナムが検出能力がなくて数字がデタラメであるからではなくて、超厳しい鎖国をかなり早い段階から繰り広げて、国をあげて無菌室を作り出したからである。
国の対応
ベトナムは武漢で感染者が出始めたあたりから国を挙げてコロナの抑え込みに注力していた。飛行機の国際線も早い段階から閉じて鎖国に入った。主な感染ルートは海外からの旅行者・帰国者だったのだが、感染者が見つかると、その人たちの過去の訪問履歴をもとに、濃厚接触者(F1)、F1との接触者(F2)と数段階に遡って洗い出され、F1・F2は政府・自治体に健康状態報告・2週間隔離を強いられた。自宅隔離ならまだましなほうで、国の用意した隔離施設に強制収容されることも多かった。ニュースにPatient XXX(性別、歳)と犯罪者のように行動履歴を晒されて、退院するときもわざわざ写真をとられてニュースにさらされた。(マスクをしているけど)
民間レベルでも、どこのビルでも検温、あらゆるドアノブを消毒していた。どんだけ意味あるのか知らないけど医療用の手袋をしている人もちらほらいた。民間企業で1人でも感染者が出るとその企業や工場は閉鎖された。ハノイのほうにあるサムソンの巨大な工場は一人感染者が出て閉鎖された。
うちのタオディエン地区なんか集団感染が起きたバーがあるので、ホーチミン市内でも特に高濃度汚染地域のように扱われて、お客さんにバイキンマン呼ばわりされる私であった。ちなみにうちのマンションでは、感染者が乗っていた飛行機に同乗していたというだけで、その人が住むマンションが棟ごと2週間隔離されたり、感染源になったバーに行ったというだけでマンション棟ごと隔離されたりしていた。隔離になったマンションには30人くらい警備員と警察と医療関係者がやってきて、テープが張り巡らされて立ち入り禁止になり、もはや殺人現場さながらになっていた。
ちなみに件のバーは営業停止ではなく永久閉鎖されて、今やホーンテッドマンションみたいになってる。バーがウイルスまき散らしたわけじゃなくて、お客さんが持ってきたのに、気の毒ではある。
今後のことはわからないので瞬間風速的にかもしれないけども、今ベトナム人と、ベトナムにいる外国人は多分全員、ベトナムは今世界で一番安全な国だと思っている。だからコロナ禍で日本帰国する駐在員は、逆に「今日本に戻って大丈夫?」と心配されている。
そんなコロナ優等生のベトナム、なぜか台湾ばかり持ち上げられて全然話題にならなかったけど、最近は日本のニュースでもとりあげられているようだ。(台湾は人口2350万人で感染者429人、死者6人(4/28日時点)、ベトナムは人口1億弱で感染者270人、死者0人。)日本のニュースでは“国民の一体感がすごい、政府の主導がすごい”という論調で持ち上げられているのがほとんどだけど、現地に住む私が見る限り、実際にはそれほどポジティブなチームワークじゃない。超絶ビビった羊(国民)を政府ががっちり、厳しいペナルティー付きで誘導したというのが実態である。ペナルティは結構厳しくて、政府にたてついたりしたら速攻逮捕される。フェイクニュースを流して逮捕され懲役刑くらうとか、マスクしてなくて罰金刑をくらったとか、とにかく問答無用ですぐに罰せられる。日本でアベノマスクとか馬鹿にしてるけど、ベトナムでフック首相に同じこと言ったら間違いなく禁固刑です。外国人なら国外追放されるでしょう。(犯罪履歴として残ってビザが発行されなくなる)
国民の反応
ところでベトナム人自身のコロナに対するビビり方は半端なくて、「感染=死」と思っているように見える。ノーヘルでバイク運転してるくせに病気に対する恐怖は半端ない。私と旦那さんの対コロナリアクションにも如実に違いが出ていて、私は“罹患したら治せばいい”派だったのに対し、旦那さんは“そもそも感染するな”派であった。その違いを生む一番の理由は医療サービスに対する信用度合で、旦那さんが言うには、ベトナムの外資病院だって有事になれば人があふれて役に立つかわからない、外資と言ったって運営はベトナム人なのだからいざというときは信用ならないのことで、ベトナムの医療はあてにならないという猜疑心にあふれていた。これは旦那さんだけじゃなくて、他のベトナム人誰に聞いても、「ベトナムには十分な医療システムがないから国を無菌室状態にする策は妥当だ」と言っていた。誰も助けてくれないというのは共通認識のようである。
かつ、旦那さんが言うには、自分たちはまともな医療にありつけるかもしれないが、感染して完治したつもりで保菌者の状態で田舎に帰ってしまったら、田舎の親戚たちはひとたまりもないから、感染自体しちゃダメなのだということだった。それは確かにそうだ。ダクノンに疫病を持ち込む進撃の(と)巨人の画が目に浮かぶ。
だから今回ベトナム国民は、「ベトナムでは誰も助けてくれない」という共通認識のもとにみんな見事に右向け右、日本みたいに専門家気取りがわんさか湧き出て好き勝手な行動をとることはせずに、ただただおびえて家にこもっていた。4月23日に3週間の社会隔離(ロックダウン)があけて自由の身になっても、その直後の土日も依然として人の外出がとても少なかった。もし私がホーチミン市で小売業者やってたら、間違いなく需要予測を大幅に間違えて、在庫と廃棄に見舞われたと思う。
そしていったんコロナは封じ込めたものの、まだハノイやホーチミン市は汚染地域と思われているようで、地方の人たちはホーチミン市から人が移動してくることを快く思っていない。そのせいかしらないけど、今週末連休に、私たちに2か月くらい会えなくて寂しがっているであろう義理両親のためにダクノン訪問してやろうと思って打診したら、“今の時期は毛虫が出るから”とやんわり断られた。ここ5年間でそんな理由で断ったことないだろ!
総論
私が上から評価するようなことでは決してないけれど、ベトナム政府の今回の対応は鮮やかだった。この国の政府は、国の事情を過小評価も過大評価もせずに、適切な対応をとったと思う。国は国民のリテラシーレベル(おそらく決して高くはない)と、行動特性を正しく把握している。良くも悪くも医療設備にも期待していない。だからこそ、国民の自主性に依存せずに明確な命令を出した。命令は明確なだけではなくて的確-全てを止めるという、誰にでもできて最強な方法―だった。
そして、今回の政府の判断はベトナム国民から高く評価されている。ベトナム人的には、失職したけどすぐ復職できるし、死ぬより全然マシという感じである。結果的に短いロックダウンで済んだし、死人も出なかった。だから今ベトナムは結構みんなハッピーオーラ出ている。世界で一番国のコロナ対応を評価しているのはベトナムだそうだ。
いまだ死者ゼロ…ベトナムのコロナ対策に「国民の93%が満足」
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200427-00010001-flash-peo
さてベトナムは無菌室を作り上げたがこれからどう開放するのか、まだまだ難しい舵取りは続く。ワクチンか対処療法確立するまで鎖国し続けるのだろうけど、自国で医薬品開発できる力もないし、先進国のどこかが薬開発するのを待つのだろうか。
日本はダラダラと感染増えたり減ったりが長く続きそうですね。今の状況に憂慮している日本人も多いと思うけど、政府が国民に強制できる仕組みがないのか、あっても発動しにくいことがネックになっているように見える。外出禁止を強制するほど政府には国民への強制力はない、一方で国民も家にこもり切る協調性もないし理由をつけて外に出るでしょう。仮に政府が強権発動して外出禁止令発令できたとして、2週間3週間ならまだしも随時延長になったら国民はなんやかんやと抗議をし始めるでしょう。封鎖しないと感染、封鎖するとストレス、にっちもさっちもいかない。日本はこのままだらだら感染続いて、そのうちに対処療法確立かワクチンが出来て、結果的に丸く収まるとなるんじゃないでしょうか。スマートとは言えないけど。
暗い話ばかりだけど、でもきっとコロナ明けは空前の好景気ですよ。視点をそちらに向けて気持ちを明るく持ちましょう。みんな外出して、みんな旅行行って、みんな買い物する。そしたらみんなどんどん儲かって景気が良くなる。きっと社会全体が明るくなります。景気良くなれば企業の投資も多くなって、私も仕事沢山もらえるはず。だから私はその時期に向けて新しいサービスを売り込めるよう仕込みを始めました。コロナ明けた頃には私はこの道のプロのはず。FY2020は厳しいかもだけど、FY2021は結構好い線行けるんじゃないかな?
数多の不確定な情報が氾濫するコロナ禍において、私が確信したことはただ一つ…サラリーマンでよかった。