ベトナムのローカル病院体験
2017/10/12
日本にいると病院に行く機会なんてインフルエンザの予防接種くらいだが、ベトナムで暮らしているとちょこちょこと病院に行く機会がある。1か月に1回まではいかないが、2か月に1回は行っている。私がよく行く病院はホアンミー病院というローカルの総合病院で、なぜここにしたかというと、日本人のよく行く病院はかなり遠いという理由と、外資の病院に行くと自分で色々説明しなきゃいけなくなるので、ローカルのましな病院に行って旦那さんに詳細を説明してもらう方がラクという理由からである。ちょっと重要な検診などは外資の病院に行くけれど。
一度、フォーにのせる酢漬けにんにくにあたって、酷い腹痛と悪寒と吐き気で動けなくなったことがあった。これはやばいと思って救急車を呼ぼうかと思ったのだけど、いつ来るか、来るかどうかすらわからない救急車を呼ぶよりその辺のタクシーを捕まえたほうが早いということでタクシーに乗せられて病院に行った。タクシーの中では横になっていたが、いよいよ手先がしびれてきた。でも手先がしびれてきたと英語で言っても通じないので、震える手で一生懸命google 翻訳でググると、「しびれ=tê」 と翻訳されて、両手を掲げながら「テ、テ・・・」と傍から見たら馬鹿みたいなことをやっていたら病院に着いた。でもタクシーで運ばれる最中に吐き気も腹痛も”テ”も治まってきて、病院に着くころには自分でスタスタ歩けるようになっていた。でも一応急患扱いですぐに点滴を受けた。通訳の旦那さんが処置室から出るように言われ、医者と意思疎通があまり出来なくなったので何の処置をされたのかよくわからない。医者と話をできないのは困るので旦那さんに近くにいてほしかったが、なぜかどうしてもダメなんだそうで、滅菌室でもないのにこのあたりは無意味に杓子定規である。
翌朝には完全に回復した。パジャマみたいな格好のまま病院に来てしまったので、パジャマみたいな恰好のまま家に帰らなければならなかった。でもご存知の人もいるかもしれないが、ベトナムの(おばちゃん)女性は「アオババ」というどこから見てもパジャマのセットアップをよく着ていて、私が町中でパジャマを着ていても(おそらく)そんなに目立たない。アオババの「アオ」は「服」という意味で、ババは直接対応する日本語がないのだが、個人的には「ババアの服」という直(?)訳でなんら問題ないと思う、多分、おばちゃんしか着ていないし。ちなみにあまりにもパジャマっぽいので旦那さんにあれはパジャマとしても着るものなのか聞いてみたら、あれは一応おしゃれ着なのでパジャマとして着ることはないんだそうだ。寝るときはもっと着心地のいい服を着るとのこと。アオババも相当着心地はいいというか、あらゆる締め付けはないと思うのだが。
そんな感じでちょくちょく病院にはお世話になっているのだが、先日3日連続耳鳴りが止まらなかったことがあって、またホアンミー病院に行くことになった。右耳が曇って、高音の耳鳴りが鳴り続けていた。
病院に着くと診察申し込みをする。毎回名前と電話番号と住所を書くので、患者情報管理なんかしていないと思う。10分くらい待っていると診察室から呼ばれる。旦那さんが状況を説明する。医者が何か説明して、私たちは一旦診察室を出る。検査代を先に払わないと次のコマ(検査)に進めないのだ。医者に言われた検査の料金を受付で払って領収書を持って診察室に戻る。この先払いのルールはまともな外資でも同じである。日本みたいにツケにはしておいてくれない。驚くべきことに急患でも同じである。酢漬けニンニク事件で私が処置室に格納されている間、旦那さんは3回くらい領収書を切ってもらっていた。単身で運ばれたらどうなるんだろう?
診察室からまた呼ばれ、医者が領収書を受け取る。検査前に消毒液を浸した綿棒を両方の鼻に10分程さしておくからとのことだ。両鼻に綿棒を指したままの状態で、廊下で待ってろと言われ診察室から出される。うら若きとは言わないが一応女性である。見てくれだってまだ気にする歳である。しかし医者も看護師もそんなこと微塵も気にしてくれない。アゴを引くなと言われたのもあって、えらく堂々とした新種のアシカが病院の廊下で硬直しているような画になる。これが旦那さんの付き添いだったからまだよかったが、付き合い始めの彼氏とかだったら大分気まずい。
アシカタイムも終わり、綿棒を引っこ抜かれて検査を始める。長くて細いストローみたいな検査器具を鼻の奥に入れて検査している。耳の中も光を当てて検査する。鼻と耳の検査をした後医者の所見を聞く際、なぜか他の患者たちが診察室に入ってきて後ろに待機しはじめる。廊下で待つ場所がないのか、早く診察を受けたいのか知らないが、プライバシーもなにもあったもんではない。癌告知とかだったらどうするのか。看護婦もなぜか注意しない。しかも医者の「異常はありません」の言葉に、後ろの待機患者たちは”さんざん騒いでなんだよ、異常なしなら早くどけよ”という空気を漂わせ始める。
この検査だけでは原因がわからないということで、別の病院で聴力と耳の中の圧力の検査を受けるように言われる。アシカの真似事までさせられて一つも原因がわかりませんでしたなんてなんだか腑に落ちないし、だいたいが耳鼻科なら聴力検査器くらい置けよという話だがないものはしょうがない。紹介状を書いてもらい言われたとおりに別の病院に行く。
次の病院は廃墟の研究機関みたいな、薄暗くて蜘蛛の巣が貼りついているが一応検査機器は置いてあるといった感じの病院だった。ここは完全ローカルのようで英語が通じない。聴力検査中どのタイミングで手を挙げるとかの説明書きもベトナム語で書いてあって、検査結果を左右する結構大事な説明なのに理解度は私のベトナム語能力に依存しており、説明書きを誤解する可能性もなきにしもあらず(だいぶある)、結果の信ぴょう性に欠ける検査となりそうだ。
検査室の中の看護婦から呼ばれる。最初は耳の中の圧を測る検査だったが、看護婦はおもむろに検査器の掃除を始める。検査器の極細チューブに誰かの耳垢が詰まっているのだ。その検査器の唯一の機能が使えない状態なのだ。色々冗談じゃない。そんなもん耳の中に入れたくないし、だいたいが詰まってたら正確に検査できないだろうし、数台しかない検査器具のメンテナンスくらい日ごろからちゃんとやってろって話である。アルコールならなんやらで消毒してチューブの耳垢を取り出し、なんとか耳の中の圧力を測る。その後、健康診断でおなじみの、遮音ボックスに入って音が聞こえたら手を上げる聴力検査をやる。ところが始まって早々、別の兄ちゃん看護師が検査室に入ってきて検査中の看護婦とぺちゃくちゃ喋り出す。かすかな検査音はもちろん聞こえない。まったく、この人たちは自分たちが耳の検査をしなきゃならないっていうことを知っているのだろうか? 2つのいたってシンプルな検査器の使い方も守れないし、検査人としての心得も持っていない。
結局耳圧と聴力検査が終わった後、結果の確からしさに多大な疑惑があった私と旦那さんはその結果表をホアンミー病院の医者に持ち帰って結果を聞くことはせずに、処方された“神経を落ち着ける系の薬”を飲んで様子を見ることにした。薬を2回分くらい飲んで耳鳴りはすぐ治った。その後再発もしていないので結果オーライ。
ホアンミー病院の医者の処方は適切だったのだろうが、今度耳鳴りがあったら違う病院に行くだろう。どうせホアンミー病院には私の病歴は管理されてないだろうし、またアシカをやらされて耳垢の詰まった機械で聴力検査をやらされるだけだろうから。