ノトニクル

ノトがパスポートとクレジットカードを持って世界のどこかをうろつきます。

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ベトナム人と結婚してみた ①サイゴンで結婚指輪作り編

      2017/02/01

長らく付き合っていたベトナム人彼氏と結婚することになり、結婚指輪を買おうということになった。私は宝石には全く興味ないので大金出して指輪を買う気は毛頭なかったのだけど、先日亡くなったばあちゃんが私にダイヤの指輪を残してくれていたので、そのダイヤを使って結婚指輪を作ることにした。日本にはちょくちょく一時帰国はするものの長居しないのでホーチミン市で業者を探して作ることにした。ばあちゃんの形見と言ってもそんな豪勢なダイヤでもないので気にし過ぎだとは思うけど、思い出のある石なのですり替えはなんとしても避けたく、新しい指輪に目の前でダイヤを埋め込んでくれる業者を探していた。で、旦那さんが見つけてきたのがカルティーノというベトナムローカルの宝石商で、カルティエに名前似てるなとは思っていたけど、やっぱり本人たちもカルティエブランドに乗っかろうという気があるらしく、ロゴマークとか、箱とかいちいちカルティエに似せている。一介の宝石商としてのプライドはないのかと神経を疑うし、由緒あるブランド品は正規店で買う習慣のある私としてはパチモンつかまされているような感覚だったけれど、普段から何かと私に却下されることが多くて意思決定の関与の少ない旦那さんの鼻をこれ以上折るのもかわいそうだし、指輪の品質が良ければ目をつぶろうということで、結局ここで作ることにした。

店ではベトナム人特有の細身のきれいなおねえさんが指なり腕なりに自分の体重以上ありそうな貴金属をジャラジャラつけて御用聞き。まだ20代そこそこなんだろうか、宝石に見合う風格なんてものは微塵もなくて、顔のニキビにニキビパッチを貼っていている。宝石はたくさんつけているが化粧はしておらず、自分をきれいに見せようとする姿勢の片手落ち感は否めない。その上司と思わしき小太りのおにいさんはおそらく30歳くらいで、戦隊ベルトみたいにゴツい偽アルマーニのベルトをして、指には木の瘤みたいな翡翠の指輪をして、ダイヤの大きさを測っている。

物価の安いベトナムでも貴金属の価格は国際取引価格なので、金やプラチナの価格は先進国と比べて変わらない。ただ加工賃と付加価値が安い分、加工品の販売価格値段は先進国より安い。日本で15万円くらいのものがベトナムだと8万円くらいの感覚なので、半額くらい。ちなみにカルティーノの価格レンジはスタージュエリーくらいなので、ベトナム人の給与からいくと最低額でも月収以上の高級品だが、日本のスタージュエリーショップ店員みたいに白い手袋をしてうやうやしく宝石を触るということはなく、商品も客持ち込みの品も手でべたべた触る。「結婚おめでとうございます」とか「おばあさまの形見のダイヤを使われるなんて素敵ですね」とかのお世辞とかも一切言わない。無言でダイヤモンドテスターを押し当てて、うんともすんとも言わずに必要事項をメモする。

カルティノでは運よく、宝石に興味ない私でも「これなら」と考えていたデザインと全く同じデザインのものがあってそれに即決。プラチナでオーダーメイドにしてもらうため1週間近く待つ。片方が日本人なのでそれだけで優良顧客候補だと思うのだが、1週間後受取に行った時も「まいど~」くらいの感じで渡されて、またここで買おうという気も、一生に一度のメモリアルな買い物をしているという気も全く起きなかった。

この時点では指輪は台だけで石はついていないので、早速ばあちゃんのダイヤを指輪の土台から外して新しい指輪に装着するためにベンタンジュエリーという老舗の宝石商に行く。ベンタンジェリーはベンタンマーケットの目の前にもある、おそらくベトナムでは結構大手の宝石商で、若者向けの華奢なデザインの商品より、「成金!ゴッツ金!ザ・翡翠!」という感じの、装飾というより資産としての商品が多い。(買ってる人たちは装飾品として買ってるのかもしれないけど)

店に入ると、大阪のおばちゃんをもうちょっとけだるくしたような化粧の濃い頭の悪そうな店頭のネェチャンがちらっとこちらを見たが、いつもベンツで乗り込んで来る成金を相手にしているからか、金持ってなさそうな浮かないリーマンの私たちには本当に興味なさそうで、私たちを目の前にしてもシャネルのシェーディングでいそいそと化粧を続ける。(以下シャネル姉と呼ぶ) そして私のばあちゃんの形見の指輪を面白くなさそうにつまみ、妹と思わしき女の子(以下シャネル妹)に何か指示すると、私たちは路面店に並ぶ宝石を作っている作業所(以下アジト)に連行されることになった。

シャネル妹の後についてベンタンジュエリーの裏道に入ると、商業地区と言えど喧噪から離れまだまだ昔ながらの民家が広がる。その中の1つの戸建てに招き入れられると、部屋は空っぽで真っ暗で、こんなところに閉じ込められて怖い人が来てカツアゲされるんだろうか、保険はかけてたっけと身構えたけれど、そのさらに奥から光が漏れていてそちらに連れて行かれた。そこが作業所だった。

そこはこれまでベトナムで見た中でも群を抜いて汚い部屋だった。部屋の角にキッチンがあって、作業員達はそこで随時料理しているようなのだけど至る所がきっちりと不潔で、床には紙屑や工具が散乱しており、ゴキの死骸もところどころに落ちている。キッチンと反対側に作業台が二台並んでいて、二人の作業者が上半身裸で汗まみれになって作業しているのだが、作業中どちらもスマホで韓ドラを観ている。ビー玉とかおはじきを入れるみたいに真珠やら翡翠やらを小汚い箱に放り込み、ビニール袋に入れた商品を机に放り投げる。観光客の多い大通りの路面店で煌びやかな宝石を並べる一方で、それを支える根幹はこれほどまでに原始的で野蛮だとは。同一企業の販売側と裏方で、整理整頓の度合、清潔の度合にこれほどまでに差があるとは。また、それを躊躇せず客に見せてしまうとは。多分、客に「きれいなものだけ見せよう、夢を見させよう」という意識がないのだろう。最終的に仕上がった商品がよければその過程はどうでもよく、作業場が汚かろうが、途中どれだけ商品がずさんな扱いを受けようが、終わりよければ全て良し。高価なものを扱って高級車に乗っていても根底の意識は相変わらず原始的というか。それを発展途上と呼ぶのかはわからない。見栄っ張りなベトナム人は最後に手にする商品が豪勢であれば、途中経過なんて誰も気にしていないのかもしれない。所得の割にはやたらとドイツ車が売れる国だし、国民性なのかもしれない。

全く似合わない大きなダイヤのピアスをしている作業員のチンピラ風兄ちゃん(チンピラA)は、ばあちゃんの指輪からさっさとダイヤを取り外し、さっき買ったばかりの新しい指輪にのこぎりでツメを付けたりペンチで動かしたりしながらばダイヤをはめ込む。ひとしきり粗雑な歯医者のようにギコギコと作業した後(指輪作りはこんなに手荒な作業なのか)、超音波洗浄したり、複数の水溶液に浸したり、高圧洗浄機にかけたり、研磨したりを繰り返す。本来ならばあちゃんの形見のダイヤが孫の結婚指輪に生まれ変わる感慨深い工程のはずなのだけど、私はもう戦場の隠れ作業所みたいな部屋に存在するあらゆるものが気になって、例えば貧乏時代の本田宗一郎の時代にだって旧式すぎて使われなかっただろう研磨機とか、錆びたコンロの上で不気味に温められている何かの水溶液とか、ボーンコレクターに出てきそうな高圧洗浄機とか、チンピラ達が見かけによらず水溶液と金属の化学反応を理解しているのかとか、そもそももうちょっとこの部屋を掃除するということを思いつかないんだろうかとか、私の理解を超える状況に困惑して正直感動的結婚指輪作成工程どころではなかった。そしてシャネル妹は私たちの接客をするわけでもなく、チンピラBが作った自分の指より太い蛇モチーフのビッカビカのゴッツイ指輪をくるくる回しながらぺちゃくちゃおしゃべりをしている。この蛇指輪は彼女が後で商品として持ち帰っていたのでそれにも驚いた。おそらく100万円くらいの商品だろうが、店頭に並ぶきらびやかな宝石たちは丁重に扱われるどころか、こんなチンピラとクソガキに杜撰な扱いをされているのかと思うと、ベトナムで高価な宝石を買うのがよりばからしく思えた。

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まじめに働くチンピラ

そうこうしているうちにチンピラAは研磨でプラチナ粉のびっしりついた手で指輪をよこした。どうやら完成したらしい。加工賃30万ドンなり。(1500円くらい)。時計の電池交換かよ。お店に戻ってばあちゃんの形見の指輪の土台の方を売るため、シャネル妹とアジトを後にする。シャネル妹は蛇の指輪と赤ん坊のおしゃぶりみたいにでかい黒真珠の指輪をくるくる回しながらプラプラと歩き、途中私たちを炎天下で待たせて親戚の赤ちゃんのところに寄る。シャネル姉は今度は白いファンデーションを塗ったくりながら、白浮きした顔でめんどくさそうにばあちゃんの指輪を眺めて、密度を測り、私たちに何の断りもなしにやすりで少し削りだし、そのやすりに2種類くらいの水溶液をかけて反応を見る。プラチナで間違いないのだが、「プラチナはベトナムでは白金だから」と白金扱いで買い取り価格7000円を提示してくる。これはプラチナの半額だ。想定外すぎる交渉に私はまたもや動揺し、だが気を取り直して「この新しい指輪はプラチナでオーダーメイドだが、あなたはこれも白金だというのか?」と聞くと、「それはイタリア産プラチナで高い」とのこと。イタリア産プラチナ。白トリュフじゃねぇんだからさ。シャネル姉は取引価格が国際取引商品であり価格はそこで決まることを知っているはずだが、あまりに客をなめ腐った態度と理屈にあきれ果て、加工賃の30万ドンだけ払って店を後にする。もちろん「ありがとうございました」もなし。

日本で買うよりはるかに安く、ばあちゃんのダイヤを使うという融通も効き、自分にとって最良の指輪を作ることが出来たことには違いないが、ベトナム人の旦那さんが手となり足となり協力し交渉してくれたからこそ出来たことだった。多分これは私がベトナム語を流暢に話せるようになっても独力でやるのは難しいだろう。そこにはベトナム人同士が相手の足元を見合う無言の交渉があり、金額が大きくなればなるほどベトナム人同士のコネを使って詐欺や裏切り行為を予防し、賄賂という御礼を送って根回しする必要が出てくるから。

皆さんも、ベトナムで何か大きな金を使う時、例えば家を借りるとか、投資するとか、開業するとかの際は、絶対に裏切らない、信頼できるベトナム人を側につけてその人に管理させましょう。まあそういうベトナム人を見つけることが一番難しいんだけども。先日うちの会社の新人がベトナムに新人研修に来て数日間かばん持ちをした後、ベトナムでのビジネス拡大について彼らなりの提案を私たち駐在にプレゼンしてくれたのだけど、結局我々駐在の意見としては「政界のドンの娘とデキ婚して政界にコネつくるのが一番早い」という結論になり、それを本社に持って帰ってプレゼンするように言いました。しかし新人はその逆提案を本社で社長にプレゼンするような危ない橋は(おそらく私たち駐在の指導力を疑われないよう)渡らなかったようですが、いつかその自らその提案をデリバリーして検証してくれることと信じています。

 - ベトナムをゆく