ノトニクル

ノトがベトナムのどこかをうろつきます。

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ベトナムでミシンを初めてみた

      2017/10/29

実はこれまでにも何回かミシンを使った洋裁を試みたことがあって、しかし安いミシンを買ったというのが一番の理由かもしれないが数日で挫折した。しかしこの度赤ちゃんが生まれて、ベトナムでは可愛くて着心地のいい赤ちゃん服が売っていないので、自作しようと思い立ち再挑戦することにした。

出産自体は日本だったのでミシンを日本で買ってベトナムに持ってくることも考えたが、荷物がすでに多かったことと、電圧が違うので変圧器なしには使えないことと、壊れてもサポートがないことなどから日本での購入は諦めた。ベトナムは各大手アパレルの工場があるし、ミシンくらい選べるだけあるだろうと期待して、ベトナムでミシン販売店を調べまくった。

ベトナムには先述のようにアパレルの服飾工場が山ほどあるので、中古の工業用ミシンが掃いて捨てるほど出回っている。家庭用ミシンは日本製だとBrotherがメインでJUKIや、中古の蛇の目なんかもたまにある。BrotherとJUKI自体はこちらでも家庭用ミシンを売り出しているが、JUKIはほぼ工業用ミシンのメーカーとして認知されている。あとは韓国製や中国製の安いミシンも出回っている。

ホーチミンの布市場の近くには工業用ミシン通りみたいなのがあって、工業団地から撤退した縫製業からの中古品が山のように出回っていて、ある意味圧巻です。

↑工業用ミシン通りにはこんな感じの販売店が数十件並ぶ

ところでこちらに住んでいると、至る所で縫い子(子といってもおっさん、”縫い爺”とする)が、道端やら畳3畳くらいの狭い店で服を作っているのを見かける。やはり数多のアパレル工場が進出しているので、そこで働いていた技術者だったりするのだろうか?いやでもそういう工場で働いているのはほとんど若い女性だから、”縫い爺”がどこで縫製の技術を身につけたのかは不明である。

旦那さんは以前近所の、上の写真みたいなストリート系縫い爺に、パンツのサイズダウンを依頼したことがある。仕上がったは仕上がったのだが、糸の始末が全くしてなくて、パンツの裏側に糸がびっしり付いていた。店もいい加減なら仕事もいい加減なのか。一方でこういうストリート系の縫い爺の他にも、スーツをはじめとしたオーダーメイドを受ける縫い爺も多い。先日旦那さんの日本の冠婚葬祭用のスーツをあるテイラーで作ったのだけど、フルオーダーの上下で2万円だった。生地代が結構かかっているはずなのに恐ろしく安い。ちなみにこちらの縫い爺は、ベトナム人にしては珍しく非常にきりっとした表情の仕事の厳しそうなおっさんだった。店内も隅から隅までホコリひとつないくらい綺麗にしていた。やはり見た目と仕事はそれなりに比例するのか。

私のミシンの件に戻る。私が拙いベトナム語を駆使してこちらのミシン事情を調べ、最終的にBrotherのミシンを買おと決めてグエンキエム(家電量販店)の店舗に現物を確認しに行った。最近Brotherベトナムは大手家電量販店でデモ実演をやっていて、私が買いに行った時もBrotherのスタッフがデモをやっていた。そこで3モデルのミシンのデモをしてもらい、散々迷って45,000円くらいの、Brotherベトナムがベトナムで正規で販売している家庭用ミシンの中では一番いい電子ミシンを買う。日本だと10万円くらいのコンピューターミシンもたくさん売っているのだが、コンピューターミシンはBrotherベトナムのラインナップになかった。至るところに縫い爺もいて、中古も山ほど出回る国なので、10万円モデルはさすがに需要がないのだろう。支払いを済ませると、重いので家まで届ける、しかも即日配送出来るという。さすが大手のグエンキム、珍しくいい仕事するじゃんと思う。でも結果それは早とちりだった。私自身も3年もベトナムにいて、そろそろ気づくべきなんですよね、そんな気の利いたサービスがベトナムで享受出来ることなんてまずないか、可能性が相当低いことに。

午後3時くらいにミシンが届く。なぜか箱がボロボロで既に開いている。箱が既に開いているのは検品のためベトナムではよくあることなのだが、物置に数年置いていたような箱のボロボロ感はなんだ。しかし基本的にものを杜撰に扱う国なので、在庫移動中にボロボロになったのかもしれない。中身を確認し始めると、30くらいあるパーツがいくつか足りない。ミシンのカバーも入っていない。グエンキエムに電話して確認すると、Brotherベトナムに電話しろとたらい回しにされる。しょうがないのでBrotherベトナムに電話し、グエンキムにいたスタッフを呼び出す。なんと届けたミシンはショールームで使っていたものだということである。一体どういう在庫移動をすればショールームの展示品が発送されるのだろうか。不思議すぎて何とクレームすればいいのか言葉が思い付かない。とにかくこの中古を取りに来て新品と取り替えてくれとお願いする。5日待ってやっと新品が届く。ミシン工場はホーチミンの隣町にあるくせに、どこに在庫置いてたらそんなにかかるんだよ!そして一緒に入れておくと言っていたインストラクションDVDはもちろん入っていない。

↑手に入れたミシン

さて、すったもんだの末ミシンを手に入れたので、次は生地と糸と針を調達しなければならない。後から判明するのだが、布と糸の調達の方がミシンのそれよりはるかに面倒だった。まず布だが、赤ちゃん用の可愛いニットはベトナムで全く需要がないのか、卸にすら売っていない。糸やゴムやファスナーのような小物もなかなか見つからない。ミシンこそ家庭用がぼちぼち出てきたが、布関連は基本的にまだ卸ばかりなので、一般消費者向けの店が全然ないのだ。縫製関連のアイテムで有名な市場のチョロンまで行ってもいいが、チョロンはめちゃくちゃ遠い上にローカル色が強く全てベトナム語で交渉なので気疲れするし、エアコンも何もないのですごく蒸し暑く、頑張った挙句に戦利品0となった場合のやりきれなさといったらない。結局、洋裁小物を売る店を見つけられず、Brotherに電話をしてどこで買えるか聞いてみると、ローカルマーケットに売っているとのこと。そりゃそうだろうよ。しかももらった情報を調べると、教えてもらった店で売っている糸は気合の工業用で、家庭用ミシンにの糸ホルダーに収まらない。

ちなみにベトナムは縫製大国なので生地が安くて豊富か思いきや、まともな生地は高い確率でタイ、中国、韓国からの輸入品で、日本と比べて2割程しか値段は落ちない。色んな柄はあるがベトナム人好みのどぎつい色合いばかりで、日本人の好みの布は1割もない。値段は1m80,000VND(400円)あたりからあって単価で見ればたしかに日本よりは安いが、結局中心地からの往復交通代(2000円)と炎天下でクソ暑い問屋をまわる苦労を足すと、多少高い日本の通販サービス付き専門店で買う方が割安な感じすらある。

で、今回は結局日本に一時帰国した時に、布から糸から全て買って帰ってきた。機材が揃えばもうあとは縫うだけ。ミシン自体の性能はなかなか良くて、取説も日本人らしく事細かに絵付きで記載してあって、初回から何の問題もなく無事赤ちゃん服は完成した。しかしミシンも日系メーカー、材料は日本製で、縫製国ベトナムにいる恩恵を全く受けていない。原価だけ見ても結局日本で既製品を買うよりも高くなってしまった。

おそらく一番安く上質な服を仕立てるには、日本で生地を買ってきてこちらでテーラーに出すことだろう、と全て終わってから気付いた。しかし最良解はわかったものの、洋裁セット一式に何万もかけた手前、布を持って外部テーラーに仕立ての委託など出来っこないので、これからもちまちまとホーチミンで洋裁マーケット開拓をしていくしかない。BrotherベトナムやJUKIベトナムがこのブログを読んで、ミシン糸とかの小売も始めてくれたらいいんだけど、と浅はかな期待をするのであります。

 - ベトナムをゆく

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