ベトナムの生活費、ホントのところ
2018/04/09
ベトナムの物価は日本の3分の1くらいなので、世帯月収が500USDもあればローカルの暮らしは出来るとか、1,000USDだと余裕だとかまことしやかに言われたりもする。確かに、安く済ませようと思えば安く済ませられるかもしれないし、500USDで生活しようと思えば出来なくもない、実際そういうベトナム人は多くいる。しかし夫婦+乳児のうちのケースで言えば、うちの月の支出は約20万円である。内訳は、8万が家賃、5万が食費、その他7万が私の服やら航空券など一時費用の積立やら散財やらもろもろの雑費。普通に日本の地方に住むくらいかかっている。車を持っていないのと、冬がないので暖房費・衣服代がかからない分安いくらいである。何に金がかかっているかというと、常時良い食材を買うことによる高い食費と、ここ最近は赤ちゃんのおむつとワクチン代。ワクチンは全額自費なので1回1万円くらい飛ぶ。ローカル病院に行けば安いとは聞いたが、ワクチン打つ前に病気になりそうな場所なので怖くて行けない。尚、他の医療費については我が家は現時点では会社に海外旅行保険をかけてもらっているおかげで大抵無料だが、ここ最近娘の風邪等で病院にかかった時は1回5,000円くらい掛かっている。これが自費だと、均して1ヶ月5,000円くらい負担が増すことになる。おむつについては1パック1,500円くらいで日本とほぼ同じくらいかかる。ベトナムの物価水準から考えると、この値段は日本でおむつ1パック5,000円くらい出す感覚で、相対的にものすごく高い。ミルクも日本円で1缶2,500円ほどするので、日本の物価水準で考えれば7,000円〜8,000円相当になる。そういうわけで、一般的なローカルベトナム人家族はおむつもミルクもあまり買わない。防水加工してある布を敷いて、1日ごとにまとめて手洗いする。ミルクは安い韓国製を使う。でも小さい子のいる日本人にとってはやはり紙おむつは生活必需品であり、ミルクも安心の日本製は譲れないところなので、ローカルファミリーに倣うわけにはいかない。
おむつだけでなくて、シャンプーやボディーソープ、ティッシュ、洗濯洗剤類も普通に日本並みに高い。トイレタリーはP&Gとかユニリーバとかの外資大手が牛耳っており、彼らは商品価格を下げない代わりに、小分けパッケージにして一度に買わせる価格を下げるようにして購買につなげる。なので1パック10円とか20円で安く感じられるのだが、30日分買えばボトルより高いわけで、月で見れば日本並みの出費になる。
食費については、現地野菜は日本の1/4から1/3程の価格でとても安く、コメも安い。ベトナム産の日本米も流通していて、こちらも味の割にはかなり安い。(1kg180円程) 国産の肉については鶏肉豚肉は日本の半額、国産牛は全く美味しくないのにそこそこ高い。卵・乳製品はほとんど日本と変わらない。チーズなどの輸入品については日本と同じか少し高い。冷蔵庫の廃棄を厳しく管理して月6万が5万弱になったりするが、月の食費が2万円で抑えられる、とかいうレベルでは決してない。
そしてこれからは娘の教育費もかかってくる。なので今の支出月20万は最低額で、これからは増える一方だ。
統計だけ見ると、ベトナムで最も栄えているホーチミン市の平均給与は300USDくらい。だから生活費として使えるお金も限られるだろうと思われる。しかし実際には、統計に出ないお金のやり取りがこの国は非常に多い。国外から越境が送金してくる金は1兆円を超え、GDPの4%に該当する。また、多くの国民が政府関係者にコネを持って脱税したり、副業で(往々にして本業以上に)稼いでいる。うちで雇っているハウスキーパーのおばちゃんも直接契約で、当然収入の申告などしていないだろう。彼女は元々スーパーで仲良くしていたおばちゃんで、ハウスクリーニング業者を探しているという話をしたら自分もスーパーのバイト以外にハウスキーピングでも働いているという話になって、うちにも来てくれという話になった。業者を通さないと窃盗などのリスクがつきまとうが、基本的に私か夫がいるときに手伝いに来てもらうし、盗られて困るような価値のあるものは金庫に入れておけばいいということで、直接契約の運びになった。週3回2時間ずつ働いてもらって、月1万円。スーパーのバイト代が月3万くらいだろうから、かなり大きい副収入だ。ちなみにベトナム国民の6割は副業持ちだそうで、英語ができる若者なんかは外国人のベトナム語レッスンをやっていて、往々にして時給3,000円くらいの値段をふっかけている。外国語を操れるだけで、ベトナムにありながらもサービスの取引価格は先進国のそれになる。だから外国語学習というのはベトナムにおける勝ち馬かつ途上国脱出手段で、ベトナム人は財産をあげて子供の外国語教育につぎ込む。ホーチミンのインターナショナルスクールなんか今バブルで、留学出来ないが外国語教育を受けさせたいベトナム人に大人気で、月2,000ドルの月謝だがほとんどベトナム人の子供だ。
通常のローカル企業では、社員への契約書上の給料は低く提示し、口頭で実際の給与額を口約束する脱税も横行している。会社にとっては社会保険料負担を抑えられるし、社員の個人所得税負担も抑えられてwin-winなわけだ。日本人からすれば信じられない感覚だが、ベトナムはまだ法人の社会的信用を醸成する土壌が未熟なので、馬鹿正直に財務報告するメリットより、粉飾決済するメリットの方がずっと大きい。もちろん上場を考えている企業は誤魔化さずに報告しているところもあるけれど。ちなみに先日Facebook通販事業者が脱税追加税徴収されたニュースがあった。ベトナムの個人商店での脱税額などタカが知れていると思われるかもしれないが、この店は年間売り上げが約17億円で追加徴収が約5,000万円だった。しみったれた裏路地のボロ平屋(想像)の1商店でこれなので、国を上げての脱税額というのは本当に巨額だろう。尚、直接関係ないが個人的に驚いたのは、人海戦術でその売り上げを作り出す商魂だ。客単価3,000円だとして60万回の出荷、一日約1,650回の出荷だ。受注はFacebookメッセンジャーで受け、出荷まで全て完全人海戦術でやっているであろうので、ある意味低コスト高収益をまさに地でいっている。ちなみにこの脱税は銀行への入出金履歴でバレたそうだ。
外資企業勤務の中間層・富裕層も激的に伸びてきている。ベトナムにも外資企業が多く進出しており、ローカル企業との給与差は何倍にもなる。シンガポールから帰越した30歳の証券マンなんて、希望給与月額Gross5,000ドルだった。日本の年収感覚で言えば1,500万円くらいか。シンガポールでは2,000万円くらいもらっていただろうから、本人的には譲歩しまくりなのだろうけど。これに限らず優秀なベトナム人は高い給料をちゃんともらっている。30代でGross2,000USDとか外資管理職だと割と当たり前になってきた。
つまり大なり小なりほとんどのベトナム人は、私たちが考えているより多くの収入を得ていて、それに伴い物価も少しずつ上昇しきている。商業都市のホーチミン市ではそれは顕著だ。特に外国人と富裕層を対象にしている領域では、客単価はローカルマーケットの数倍はある。よくベトナムの食費について、フォーが150円、バインミーが100円で、ちょっと外食入れても1ヶ月の食費は15,000円以内みたいなシミュレーションをしている人を見かけるけれど、ベトナムにやって来たばかりで実情を知らないか、まだベト飯に飽きたり当たったりしてもいないのでしょう。完全にローカルに溶け込み、ベトナムのごく一般的な生活に対してなんの不満も抱かない日本人がもしいたら、その人は間違いなくその貴重な才能の活かし方を間違えている。
日本は”グローバル人材”なる言葉さえ作り出すほどの海外コンプレックスを持っているくせに、日本人は往々にして「決められた入り口からはいればグローバル人材、それ以外はアウトローで自己責任」のような一刀両断の区切り方をすることに違和感を感じる。海外で働ける能力と意志のある日本人をもう少し柔軟にサポートするような仕組みがあってもいいのではとも思う。けれども、国外で交渉出来るスキルセットの訓練を民間企業に任せっきりの今の状態は、人口が1億人切っていよいよヤバい、国内では儲けられない、と皆が気づくまで変わらないと思うので、今海外で働きたい人は少なくとも日本で暮らせるレベルの収入を担保出来ている状態で出国することを強くお奨めします。