ノトニクル

ノトがベトナムのどこかをうろつきます。

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隣のカオダイ教徒

   

うちの社員にカオダイ教という宗教を信仰している社員がいる。タイニン省というホーチミンの隣の省に本山があって、この地元のタイニン省には数百万人規模で信者がいるらしい。儒教、道教、仏教、キリスト教、イスラム教の5つの宗教のいいとこどりの教えだそうで、また「孔子、老師、釈迦、観音菩薩、キリスト、ムハンマド、李白、太上老君、ソクラテス、トルストイ、ヴィクトル・ユーゴーを聖人や使徒と仰ぐ。」(Wikipedia)という、功績残した人は宗教関係なく絶対評価で崇めるという、割と世界平和というか、敵を作らずみんなにいい顔しいの教えらしい。円球から偉い人が覗いている天眼というシンボルがあるのだけど、これがすごく独特なデザインでなんともコメントし難いが、私に分かることは二十世紀少年のロゴと若干被ってるということだけである。

このカオダイ教徒の社員、入社してから知ったのだけどビーガンで、肉はもちろん魚も卵も牛乳もダメ、動物性のものは全部ダメ。ベトナム人なのに魚醤も食べないという徹底ぶりで、日本出張時に寿司や和食をエンジョイすることなく、インド料理店でカレー食べていたらしい。何食べようが何信じようが個人の勝手ではあるが、同じ釜の飯を食うじゃないけど、チームの打ち上げで鍋とか焼肉とか行けないのは正直残念ではある。でもまあそのくらいならいいんだけど、体調崩した時が困る。栄養あるもの食べれないからなかなか回復しない。独り身なのでろくに料理もしない。以前一ヶ月で6キロ痩せて日々集中力に欠いていた時は流石にどうにか自己管理しろと思った。それでなくとも体力重視の職業なんだし。
でも実はベトナムって結構ベジタリアンが多くて、レストランもスーパーもベジタリアン用を用意している。ホーチミンは特にタイニン省に隣接しているので、それも手伝ってカオダイ仕込みのガチビーガンが結構いそうだ。

ライフスタイルだけじゃなく見た目も坊さんっぽいので、ここではこの社員を坊さんと呼称するとして、この坊さん、みんなにいい顔しいの宗教の教徒なだけあって本人も八方美人で、人が良すぎていろんな人にいいように使われている。年下のメンバに雑用全部押し付けられているし、同じフロアの別会社の荷物を(先方にスペースがないからと)預かってくるし、親の生活費全額仕送りして、2週間に1回片道100キロバイク往復して帰省している。そしてこの坊さん、ビーガンなだけあって殺生ご法度で、オフィスにいる蟻とか小さな蜘蛛も殺さないで紙に包んで外に出す。でも蟻なんて一度補給路を作り出すと順次わらわら出てくるわけで、いよいよ増えてきてPCのキーボードとかお客さんに出す資料のクリアファイルに入ってきたりするようになった。それでも放置している坊さんに嫌気がさした私は、坊さんが出張中に殺虫剤撒いてこれ見よがしに殺虫剤ボトルを部屋の隅に置いておいた。ええわたくし、蜘蛛の糸でいうところの、真っ先に地獄に落ちるタイプの人間ですけれども、でも一応弁解させてもらうと、日々大小ゴタゴタ起こる中で、小さな問題なんてぶったぎって回していかないといけないわけで、坊さんの慈愛や蟻のロジスティクス戦略に構ってられないわけです。それにそもそも、コンサルってのは陰湿で性悪でなんぼみたいなところがあって、出てくる事象、意見、分析のすべてに疑ってかかって厳しく追及して、やっと本質をつかめたり品質を高められたりするわけで、コンサル職で身を立てるには意地の悪さ(と狡猾さ)が前提条件になってる感すらある。だから今更あの上司性格悪いとか、血も涙もないと言われても順序が違うわけです。うちの会社の偉い人だって社員旅行で訪れた四国八十八箇所系の寺で「これまでの数々の罪を悔い改めるためお遍路に出向きたい」って言っていた。トップからして罪深く、かつその自己認識があるわけです。ちなみに思わず「手遅れでしょう」と言ってしまった私であり、生意気ととられたかオモロイととられたか・・・サイが投げられるのは(年次人事評価が出るのは)今年の四月である。

ところでこの坊さん、先日女性の日に花をくれたんだけど、ある意味期待を裏切らない、まさかの菊だった。ベトナムでは菊ってのは仏花じゃないのか?と思ったんだけど、案の定仏花で、家で旦那さんが呆れてた。しかし、タイミング逃してこれ仏さんにあげる花だよとも言えず、この坊さんが菊は仏花だと今時点で認識しているのか定かではない。あるいは日頃のパワハラへの仕返しで嫌がらせとしての菊なのだったらかなりコンサルの素質ある。でもこの坊さん、その見た目とは裏腹に結構とっかえひっかえ別の女の子達とごはん食べてて、高給取りなのがバレてるからなのか知らないけど結構モテてるらしく、でもいまだ彼女がいないところを見るとやっぱり知らないで菊あげちゃってるんだと思う。
私生活楽しそうな一方で、日々のプロジェクト活動で私があまりにも厳しくしているもんだから、入社してから徐々に顔色が悪くなってるような気がして、先日別の日本人駐在から坊さんに上司とうまくやれてる?と聞いてもらった。本心かわからないけど、「厳しく指導してもらって感謝してる、母であり姉であり教師である」とのことだった。また、「ストリクト&ストロングであることは他の人にも有名だからそういうものと受け入れている」と軽くディスっていたとのことだった。いやいやちょっと待てと、ストリクトはわかるけどストロングってなんだ、他の人って誰だと思いましたよね。ほんとこの坊さんは一言多い。

ベトナム人は通常3年くらいしか1つの会社にいないので、どのくらい一緒に働くことになるのかわからないけれど、踏ん張って頑張って成長してほしいものです。頑張って育ててSクラスになった坊さん自身がそのうち転職する可能性は大いにあるけど、丁寧に育てたSクラスはまた別のSクラスを引き付けたり育てたりするので、坊さんが成長すれば自ずといろんな形で貢献してくれるでしょう。だからいずれにせよ坊さんが育たないことには何も始まらない。私の苦労が少しでも多く有効的に活かされるためにも頑張って欲しいものです。尚さんざん偉そうなこと言ってるけど私は新卒から3年くらいは本当にクズだった。評価でバツを食らわなかったのが不思議なくらい怠けていた。が、ある日、匠気質で人遣いが苦手なプロマネが無邪気に私をチームリーダーにしてから、プライド先行で覚醒してそこからマシになった。ある意味博打が当たったみたいなものだけど、完全に「立場が人を育てた」というシナリオで私は成長した。うちの坊さんもどこかでスイッチが入るといいんだけれども、そのスイッチがどこにあるかまだわからない。厳しいお客さんに資料の不出来を公開処刑されるのが一番のショック療法で早いのだけど、この国だとそういう難しいシチュエーションがまだほとんどないので、私のほうで鍛練するしかない。早く私の顔色じゃなくてお客さん見て仕事してくれるようになって欲しい。子トラに狩の仕方を教える母トラの気分です。この坊さんは慈愛を封印して鋭い牙を持つトラになれるのか・・・今年も修行は続く。まずは蟻を殺すところからである。

 - ベトナムをゆく

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