ノトニクル

ノトがベトナムのどこかをうろつきます。

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ベトナム人と結婚してみた ⑧結婚式編

      2018/02/20

純白のウェディングドレスに身を包んだ素敵な結婚式は大方の女子の夢だが、その大方に当てはまらないのが私で、出来ることなら結婚式など挙げたくないと常々思っていた。いわんやベトナムのごてごてしたド派手な結婚式など出席するのすら気恥ずかしいくらいで、しかし「結婚式を絶対挙げたくない理由」というのが見つからず、かなり消極的な理由で結婚式を挙げることになった。

最近日本では自分たちで作るフリースタイルの結婚式が流行っているようだが、私はベトナムのゴテゴテの結婚式をどうしても回避したく、必然的に自作のフリースタイルの結婚式を行うことになった。会場に選んだBinh Quoi Tourist Villageはホーチミンの郊外にあり、人工の小さな池や小川を囲むようにレストランやリクリエーション広場を設けた大きな公園だ。旦那さんと付き合い始めた頃、自然のたくさんある公園が好きな私のために見つけて連れて来てくれた思い出の場所である。市内からのアクセスが悪いので観光客はほとんどいないが、広いわりによく整備されていて、レストランの料理も美味しく、何より静かで、ガヤガヤと煩いホーチミン市において貴重な場所だ。こういう閑静な公園でこじんまりとしたオープンパーティを開くくらいなら、と思ってしまったのが全ての災難の始まりであった。

↑Binh Quoi Tourist Village 1

式当日。朝早々部屋のオーナーから電話があり、今からエアコンの室外機の場所を変えに行くと言う。今日は自分たちの結婚式で忙しいと言っても今日じゃないと無理なんだと押し通そうとする。そんなわけはない、エアコン修理業者のおっちゃん達なんていつも店先でスマホいじってるぞ。とにかくエアコンをとるか結婚式をとるか二択に一択を迫られる。日曜日に突然来るのがそもそも迷惑なんです、ましてや結婚式の日に、みたいな話をしていると、なんとまだ呼んでもないはずの設置業者が来た。かくして私たちはエアコン室外機工事のガガガガという騒音の中(相手の話が聞こえない)、結婚式準備を始めた。

この結婚式の数ある失敗の中での一番のそれは、この結婚式の段取りを指示するリーダーをきちんと決めなかったことである。Binh Quoiのマネージャは契約手続きこそ率先してやった(売上が自分の手柄になるから)ものの、当日はほとんどぼーっと突っ立っているだけで、むしろいない方がましなほど邪魔というほど酷い働きっぷりを露呈した。私が分刻みの当日の進行表を渡しておいたにも関わらず、である。結局指示を出す担当がおらず、新郎である旦那さんが、ビールの置き場からお客さんの案内まで現場の指揮を執らなければならなかった。

衣装のアオザイは私が不貞腐れてずっと取りに行かなかったため(詳細は別記事)、当日取りに行った。しかしベトナムで”ぶっつけ本番”とは即ち”失敗”を意味する。旦那さんが持って帰って来たアオザイにはなんとピンクのチャコペンがついたままだった。慌てて水をつけてこすってみると、思惑とは裏腹に色が濃くなった。なんでもそのチャコペンは油性で、ドライクリーニングじゃないと落ちないというのだ。前もってアオザイを取りに行かなかった自分にも非があるのは重々承知だが、だからってチャコペンのついたままの商品を卸すというのはどうなのか。ドライクリーニングには最短でも4時間かかるとかで、式に間に合わなくなる可能性が大だった。焦りばかりが募る。旦那さんは目立たないからそのまま着ろという。自分の国の衣装でもないアオザイを、しかもチャコペンが付いたまま着ろというのか。結局旦那さんが、自分がアオザイの仕立て屋に行って、クリーナーを借りて落としてくると、アオザイを抱えてどこかに出て行った。数時間後、旦那さんに返してもらったアオザイは、チャコペンは取れているが半ば湿っていた。結局自分で、ベトナム焼酎と歯ブラシで落としたらしい。私のために最善を尽くしてくれる旦那さんには頭があがらない。情愛は深まるべきだが、しかしジメジメのアオザイでは申し訳ないがそういう余裕が生まれない。早速着替えるが、蒸し暑い屋外で着るじっとり湿ったアオザイは汗疹が出来そうである。結婚式場で新郎新婦が衣装に着替えてお互い顔合わせするシーンって、もっとロマンチックで厳かなものかと思っていたが、私たちのそれは、蒸し暑く、湿っていて、せわしなく、全てが行き当たりばったりだった。

会場では能無しマネージャが頼んでおいたブーケを持って待っていた。ブーケは、カラーブーケのような品が良くてエレガントなブーケをリクエストしていたのだが、用意されていたのはハスの花のブーケで、これは見た目こそ綺麗だがブーケというよりは2kgくらいの重さがあって、式中手当たり次第に近くのテーブルに放置することになった。しかも直近まで水に挿していたので、水がしたたってきてアオザイに垂れる。このハスの花でマネージャーをぶん殴りたい。ちなみにブーケトスなんかもちろんしなかった。あんなのが頭上に落ちて来たらちょっとした事故である。

式はたしか6時に始まった。ベトナム人にとって結婚式は、6時に始まると通知しておくと7時に行けばいい”お祭り”的な催しなので、ここは日本式に”ちゃんと6時に席についているように”お願いしておいた。その甲斐あってちゃんと6時に全員集合で開始することができた。この式でうまくいったのは、この”開始時間に開始できたこと”くらいである。乾杯の前に、新郎新婦と双方の父から挨拶の流れだった。日本語通訳は挨拶を全てはしょり、「今日はきてくれてありがとう。」としか訳さなかった。いやいや、お父さん3分くらい話してたぞ?でもまさか檀上でクレームするわけにもいかない。その品質もさることながら、明らかに通訳できていないことを恥ずかしいと思わないのだろうか?そしてその品質で報酬を得ることを恥ずかしいと思わないのだろうか?こいつもブーケで殴りたい。

乾杯をもって始まった式は、最初の目録として日本でよくあるように新郎新婦のなりそめ紹介ビデオを流して始まった。しかしビデオを移すプロジェクターは舞台の袖の方に用意されていて、冗談抜きで前方の席からしか見えなかった。だから観たい人は自席を離れて前の方に移動しなければならなかった。それでも一応始まった紹介ビデオはなんと途中で切れてしまった。なんとDVDへの焼き付けが途中で終わっていたのだった。

グダグダなまま終わった紹介ビデオの後、懇意にしているお客さんから獅子舞の披露があった。お客さん自身が踊るのではなく、獅子舞サービスを呼んで披露してもらうのだ。私たちの進行シナリオでは、サプライズとして獅子舞が乱入してくることになっていて、進行表の中に「あの音はなんでしょう?」みたいな司会者の前振りがあって獅子舞が乱入、ということになっていた。なのに、知ってか知らないでか、獅子舞チームは堂々と会場の横に獅子の頭を担いだままたむろって携帯をいじっていた。しかも動くだけでチャリンチャリン鈴が鳴るので目立つことこの上ない。融通の利かない司会者は、それでもなおシナリオ通りに「あの音はなんでしょう?」と読み上げる。明らかに獅子舞だろ!台本より空気読めバカヤロー!

私の一存でカラオケ禁止、シャンパンタワー、ケーキ入刀もなしの見世物のない式だったので、獅子舞は唯一の見世物らしい見世物だった。狭い舞台の上で肩車をしながらアクロバットに踊っていて、結婚式にはあまり関係ないかもしれないが見応えがある踊りだった。

カラオケを禁止した代わりに、旦那さんの上司の奥さん(プロの歌手)が歌を披露してくれた。ベトナムでは非常に有名な、日本でいう美空ひばり的なポジションのチンコンソンの歌を歌ってくれた。アンコールも含めて2曲歌った後、触発された別のお客さんがマイクを奪って別のチンコンソンを歌い始めた。どうやら、どうあがいたところでベトナムの結婚式など、行き着く先はカラオケ大会であるようだ。歌を歌い終わる頃にはベトナム人のお客さんはぼちぼち帰り始めていた。日本語通訳もどっかに行ってしまい、締めの挨拶も「はーいじゃあ解散!」みたいな感じでグダグダに終わった。

あれから1年、笑いにとまでは行かないがやっと感情の大きな起伏なしに、過ぎ去った過去として語れるようになった。もしあなたが日越カップルでこれから結婚式をするなら、アレンジなしのベトナム婚で大人しく突っ立っているか、出来合いの海外挙式のどちらかにしたほうがいいです。下手にベトナムでフリースタイルの結婚式なんかやろうとしたら、中学生の学祭レベルに留まること請け合いです。

尚、いろいろ文句書きましたが、この公園自体は素敵な公園です。結婚式を挙げない限りにおいては一度行ってみることをお勧めします、私は当分行かないですけど。

Binh Quoi Tourist Village 1 (たしか3くらいまであるが、オススメは1)
1147 Binh Quoi Street, Binh Thanh District, HCMC

 - ベトナムをゆく

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